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神戸地方裁判所 昭和55年(ワ)34号 判決 1984年9月11日

原告

向井満

被告

角野康男

ほか一名

主文

一  被告兼佐古田道夫承継人(以下被告という)佐古田教男は原告に対し金一六八三万五四二八円およびこれに対する昭和五一年八月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告佐古田教男に対するその余の請求および被告角野康男に対する請求はこれを棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告佐古田教男との間では、原告について生じた費用を四分し、その一を同被告の、その余を各自の負担とし、原告と被告角野康男との間では全部原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、原告において金三〇〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金三一五二万四八九九円、及びこれに対するいずれも昭和五一年八月三日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一) 発生時 昭和五一年八月三日午前七時五分ころ

(二) 発生地 神戸市垂水区伊川谷町上脇六八一番地先路上

(三) 事故の区分 正面衝突

(四) 加害車両

(1) 神戸四め七一二七号

運転者 佐古田道夫

(以下佐古田車という)

(2) 神戸四四ち五五九三号

運転者 川島正洋

(以下川島車という)

(五) 被害者 原告(川島車に同乗)

(六) 事故の態様

川島は原告を同乗させ、川島車を運転し、西から東へ時速約五〇キロメートルで進行し、佐古田道夫は佐古田車を運転し、東から西へ時速四十五キロメートルで進行し、前記日時場所において道路中央付近で正面衝突したもの。

(七) 傷害の部位・程度

頭部外傷Ⅰ型、全身挫傷、頸髄損傷及びこれによる四肢まひ、躯幹、四肢知覚傷害等

(八) 治療期間

(1) 昭和五一年八月三日から同月四日まで二日間伊藤外科に入院。

(2) 同五一年八月四日兵庫医科大学病院へ転医、同五二年一月二一日まで一七一日間入院、同年一月二二日より同年五月二一日まで通院し、同日症状固定となつた。

(3) 右通院期間中の同五二年四月一日から同年五月三一日の間、兵庫県玉津福祉センターリハビリテーシヨンセンター附属中央病院へ機能回復訓練のため通院。

2  被告らは、次の理由により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(一) 被告角野は、加害車両神戸四四め二一二七号の保有者として自賠法第三条による責任がある。

(二)(1) 佐古田道夫は、前方注視、減速徐行等の安全運転義務を怠つた過失によつて本件事故を発生せしめたものであるから、民法七〇九条による責任がある。

(2) 佐古田道夫は、昭和五六年八月一二日死亡し、被告佐古田教男(父)が相続によつて佐古田道夫の義務の二分の一を承継した。

(三) 被告佐古田教男(以下被告佐古田という)は、佐古田道夫の使用者であり、本件事故は佐古田道夫の業務執行中に発生したものであるから、民法七一五条による責任がある。

3  原告の損害は、次のとおりである。

(一) 治療費 金一三三万一一六八円

(1) 伊藤外科 金六万二二六〇円

昭和五一年八月三日より同年八月四日

(2) 兵庫医科大学病院 金一一二万七六六八円

同五一年八月四日より同五二年五月二一日

(3) 兵庫県玉津福祉センターリハビリテーシヨンセンター附属中央病院 金一四万一二四一円

(二) 看護費 金八五万四〇六五円

(1) 職業看護人費 金四〇万四〇六五円

同五一年八月三日から同年一一月九日までの間六四日分

(2) 近親者看護費 金四五万円

(イ) 入院期間分 金二七万円

同五一年八月五日より同五二年一月二一日までの間で職業看護人が付添つていない日及び実際に看護の必要があり付添つた一〇八日分、日額二五〇〇円。

(ロ) 通院期間分 金一八万円

同五二年一月二二日より同年五月二一日症状固定までの一二〇日分、日額一五〇〇円。

(三) 入院雑費 金一〇万三二〇〇円

日額六〇〇円、入院期間一七二日分

(四) 休業損害 金一四六万二九二〇円

原告は同四五年頃より大工職人として同五一年六月分金一五万九二〇〇円、七月分金一四万一四〇〇円計金三〇万〇六〇〇円の賃金を得ていたので、同五一年八月三日より同五二年五月二一日症状固定まで二九二日分

300,600円×(292÷60)=14,629,920円

(五) 後遺障害による逸失利益 金三九〇三万四五九三円

原告の後遺症は自賠責等級第三級三号

月収平均一五万〇三〇〇円として労働能力喪失一〇〇%、喪失期間四〇年(ホフマン係数二一・六四二六)で左記の通り算出

150,300円×12×1×216,426=39,034,593円

(六) 慰謝料 金一二五〇万円

(1) 入通院につき傷害の部位程度並びに入通院期間等諸般の事情を考慮し、 金二五〇万円

(2) 後遺症につき 金一〇〇〇万円

以上、合計金五五二八万五九四六円。

4  損益相殺

右請求額金五五二八万五九四六円のうち、原告は、左記の金額を受領した。

川島正洋より 金一八六万〇九五五円

佐古田道夫より 金六六万九四三八円

自賠責保険(後遺障害分二三五〇万円を含み)より 金二四二三万〇六五四円

合計 金二六七六万一〇四七円

従つて右請求額より既に受領した金額を差引けば金二八五二万四八九九円である。

5  弁護士費用 金三〇〇万円

6  よつて、原告は、被告らに対し、前記損害額金二八五二万四八九九円及び弁護士費用金三〇〇万円、合計金三一五二万四八九九円につき、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1のうち、(一)ないし(五)の事実は認める。

同(六)のうち、川島車の時速が五〇キロメートルであつたとの事実及び佐古田車の時速が四五キロメートルであつたとの事実は否認し、その余の事実は認める。

同(七)(八)の事実は知らない。

2(一)  請求原因2(一)の事実は否認する。すなわち、佐古田車の所有名義は被告角野となつているが、被告角野は、被告佐古田に対し単に名義を貸したにすぎず、佐古田車の運行供用者ではない。

(二)  同(二)の(1)の事実は否認する。

本件事故は、専ら川島正洋の制限速度違反、徐行義務違反等の安全運転義務を怠つた過失によつて生じたものであり、佐古田道夫には何らの過失も存しない。

同(二)の(2)の事実は認める。

(三)  同(三)のうち、被告佐古田が佐古田道夫の使用者であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  請求原因3の事実は否認する。

4  請求原因4のうち、原告が合計金二六七六万一〇四七円を既に受領している事実は認める。

5  請求原因5、6は争う。

三  抗弁

(被告角野)

免責

仮に被告角野が佐古田車の運行供用者であるとしても、被告角野及び佐古田道夫は佐古田車の運行に関し注意を怠らなかつたものであり、本件事故は被告川島の過失のみによつて生じたものである。また、佐古田車には構造上の欠陥又は機能上の障害はなかつた。

(被告ら)

1 消滅時効

(1) 本件損害賠償請求権のうち、後遺症によるもののほかは本件事故発生と同時に直ちに発生し、原告はその時点において損害を知つたものであるから、事故発生時から消滅時効が進行する。

また、後遺症によるものについても、損害を知るためには、症状が完全に固定する必要はなく、社会通念上損害及び損害額を算定しうる程度に症状が固定すれば、この段階をもつて消滅時効の起算点とすべく、本件事故による原告の後遺症は、遅くとも昭和五二年一月一四日(本訴提起の三年前の日)より以前にほぼ固定しており、原告はその段階で既に損害を知つていたものである。

また、原告は、遅くとも右日時以前に加害者を知つていた。

よつて、本件損害賠償請求権は、民法七二四条により、既に時効により消滅した。

(2) 被告らは、本訴において右時効を援用する。

2 無償同乗

川島正洋は、昭和五一年八月三日、作業現場に赴くに際し無償で好意的に原告を川島車に同乗させた。

それゆえ、仮に本件事故が川島正洋と佐古田道夫との共同過失によつて生じたものであるとしても、被告らの責任は否定ないし軽減されるものである。

3 過失相殺

原告は、大工職人として川島正洋に雇傭され、作業現場に赴く際は川島車に同乗していた。

ところで、事故当日である昭和五一年八月三日も原告は川島車に同乗し、川島正洋とともに作業現場に赴く途中であつて、しかも原告は運転免許も有していたのであるから、川島正洋が法規に従つて安全な運転をなすよう注意を促すべきであつた。

にもかかわらず、原告は、徐行義務に違反し、前方に対する注視を欠く川島正洋に対し、何ら助言を与えることなく、漫然と同乗していた。

したがつて、右事情を原告固有の過失として、損害額の算定にあたり斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

(被告角野の抗弁に対する認否)

否認する。

(被告らの抗弁に対する認否)

1 消滅時効の抗弁に対する認否

(1) 本件損害賠償請求権のうち、後遺症によるもののほかは、本件事故発生日から消滅時効が進行することは認め、その余の事実は否認する。

原告の後遺症の症状固定日は昭和五二年五月二一日である。

(2) 被告らが本訴において時効を援用したことは認める。

2 無償同乗の抗弁に対する認否

争う。

3 過失相殺の抗弁に対する認否

争う。

五  再抗弁

被告らは原告に対し、別紙のとおり、本件交通事故による損害賠償債務の一部として、治療費等の支払をなしており、その最終支払日は昭和五二年六月一九日であるから、同日、後遺症によるものを除く本件損害賠償債務を承認したものとして、右消滅時効は中断している。

その後、昭和五五年一月一四日に、原告は被告らに対し本訴を提起したので、同日本件損害賠償請求権の消滅時効は再び中断した。

六  再抗弁に対する認否

原告主張の金額総合計を支払つたことは認めるが、その期日は争う。

右支払が債務の承認になることは争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

同(七)(八)の事実は、甲第一号証の一、二、第二号証の一ないし一五、第三号証の一、二によつて認めることができる。

二  被告らの責任

1  被告角野の責任

甲第一二、一九、二〇号証、乙第一号証、被告佐古田教男本人尋問(第一回)の結果によれば、被告角野は、佐古田車の所有名義人であるとはいうものの、佐古田車に対して何らの運行支配もなく、その運行による利益も得ていないものであつて、被告佐古田が同車の実質上の所有者であり、被告佐古田が同車の車庫証明をとる都合上、被告角野の名義を借用したにすぎないことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

よつて被告角野は、単なる名義貸与者にすぎず、自賠法第三条に基づく運行供用者責任は負わないから、原告の被告角野に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

2  被告佐古田の責任

(一)  佐古田道夫の責任

前記争いのない事実に甲第七ないし一一号証、第一四ないし二〇号証、第二二号証の一ないし三によれば、本件事故は、佐古田道夫が、普通貨物自動車を運転して、本件事故現場に東方から時速約四五キロメートル(速度制限は時速四〇キロメートル)でさしかかつた際、本件道路の幅員が約五・五キロメートル(本件衝突現場の西方からはその幅員は約六・四メートルになつている)であり、前方左側には停車車両があつてその幅員を狭くしていたから、減速徐行して前方の対向車に注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、時速約四〇キロメートルに減速したのみで、停車車両を避け、右方向指示器を点滅させて進路を右寄りに変更して進行したところ、前方に対向進行してくる川島車を認めたが、同車が佐古田車を避譲してくれるものと軽信し、そのまま進行したため、右停車車両の北側付近で川島車と衝突したこと、他方川島正洋は、普通貨物自動車を運転して、時速約五〇キロメートルで本件事故現場にさしかかつたが、本件事故現場の状況は前示した如くであり、従つて川島正洋にも減速徐行して前方の対向車に注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、佐古田車が停車車両の手前で自車を避譲してくれるものと軽信し、そのままの速度で進行したため佐古田車と衝突したこと、本件事故現場はややカーブになつていて前方の見通しは良くなかつたものの、双方ともに減速徐行しておれば本件事故は避けられたこと、佐古田道夫及び川島正洋は、本件事故につき、それぞれ略式命令を受けたこと、が認められる。

右認定に反する証人西馬功の証言、被告佐古田教男、もと被告川島正洋各本人尋問の結果はたやすく措信できない。

右認定事実によれば、川島正洋にも減速徐行して対向車に注意して進行すべき注意義務を怠つた過失はあるものの、佐古田道夫にも同様の過失があることは明らかであるから、佐古田道夫は本件事故につき民法七〇九条による不法行為責任がある。

(二)  被告佐古田の責任

請求原因2の(二)の(2)の事実(相続関係)は当事者間に争いがない。

また同2の(二)の(3)のうち、被告佐古田が佐古田道夫の使用者であることは当事者間に争いがなく、本件事故が被告佐古田の業務執行中に発生したものであることは、甲第一六、一九、二〇号証、原告本人尋問の結果によつて認めることができる。

よつて、被告佐古田は、本件事故につき民法七一五条による使用者責任を負うほか、佐古田道夫の相続人として、民法七〇九条による不法行為責任(ただし佐古田道夫の債務の二分の一につき)を負うことになる。

三  損害

1  治療費 合計金一三三万一一六八円

(一)  伊藤外科分 金六万二二六〇円

甲第一号証の一、二によれば、伊藤外科における治療費は、金六万二二六〇円であることが認められる。

(二)  兵庫医科大学病院分 金一一二万七六六八円

甲第二号証の一ないし一五によれば、兵庫医科大学病院における治療費は、金一一二万七六六八円であることが認められる。

(三)  兵庫県玉津福祉センターリハビリテーシヨンセンター附属中央病院分 金一四万一二四〇円

甲第三号証の一、二によれば、同病院における治療費は、金一四万一二四〇円であることが認められる。

2  看護費 金三四万七二二五円

甲第二号証の一ないし三によれば、原告は昭和五一年八月三日から同年一〇月三一日までの入院期間中、付添看護を要したことが認められるが、その後の入院期間中及び通院期間中に、付添看護を必要としたことを認めるに足りる証拠はないから、これを認めることができない。

しかして、昭和五一年八月三日から同年一〇月三一日までの間の職業看護人費は、甲第四号証の一ないし一一、一三によれば、金三四万七二二五円であることが認められる。

同期間中、職業看護人が付添つていない日に原告の近親者が付添つたことを認めるに足りる証拠はないから、これを前提とする看護費は認めることができない。

3  入院雑費 一〇万三二〇〇円

入院期間は前記認定のとおり一七二日であり、入院雑費は一日六〇〇円が相当であるから、入院雑費は計一〇万三二〇〇円となる。

4  休業損害 金一四三万八九三七円

甲第五号証、第六号証の一、二、第一六号証によれば、原告は昭和五一年五月から五興マリン工業で働き、同年六月は金一五万九二〇〇円、同年七月は一四万一四〇〇円の賃金を得ていたこと、原告の症状固定日は昭和五二年五月二一日であること、事故日から右症状固定日までは二九二日間であつてその間原告は稼働しえなかつたこと、が認められる。

これによれば、原告の休業損害は金一四三万八九三七円と認めるのが相当である。

5  後遺障害による逸失利益 金二九二七万五九四五円

甲第五号証、原告本人尋問の結果によれば、原告の後遺障害は自賠責等級三級に該当するものであつて、著るしく生活に不便を覚えており、昭和五五年一〇月ごろから会社員として使い走りなどの仕事をしているものの、体調が悪くて一週間位連続して会社を休むこともあることが認められ、これによれば本件後遺症による労働能力喪失率は七五パーセント、喪失期間は四〇年(ホフマン係数二一・六四二六)と認めるのが相当である。

これによれば、原告の後遺障害による逸失利益は金二九二七万五九四五円となる。

6  慰謝料 金九五〇万円

前記認定の原告の受傷内容、治療経過、後遺障害の程度、さらには後記原告の無償同乗の事情等を考慮すると、原告に生じた入通院慰謝料は金一〇〇万円、後遺障害慰謝料は金八五〇万円が相当である。

7  総損害 金四一九九万六四七五円

以上の損害を合計すると金四一九九万六四七五円となる。

四  消滅時効

1  本件損害賠償請求権のうち、後遺症によるもののほかは、本件事故発生日である昭和五一年八月三日から消滅時効が進行することは当事者間に争いがなく、後遺症によるものについては、起算点の客観性、明確性が要求されるから、医師の診断した症状固定日から消滅時効が進行するものと解すべく、従つて、後遺症によるものについては、甲第五号証により、昭和五二年五月二一日から消滅時効が進行することが認められる。

2  被告佐古田が本訴において時効を援用したことは当事者間に争いがない。

3  甲第二一号証、証人上野正夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告佐古田は原告に対し、昭和五一年八月以降本件損害賠償債務の一部として治療費等の支払をなしており、その最終支払日は昭和五二年六月一九日であること、その後被告佐古田は、「川島の方が悪いから、自分の方は支払わない、ちやんと決まれば払う」といつて治療費等を支払わなくなつたことが認められる。

従つて、被告佐古田は、昭和五二年六月一九日に、後遺症によるものを除く本件損害賠償債務を承認したものというべきであるから、右消滅時効は中断した。

4  その後昭和五五年一月一四日に、原告は被告佐古田に対し本訴を提起したことは、一件記録上明らかであるから、同日後遺症によるものを含めて、本件損害賠償請求権の消滅時効は再び中断した。

5  よつてこの点に関する原告の主張は理由がない。

五  無償同乗

甲第一六ないし一八号証、もと被告川島正洋本人尋問の結果によれば、川島正洋は、事故当日、同僚の原告方に川島車で立寄り、共に作業現場へ赴かんとして、無償で好意的に原告を川島車助手席に同乗させたことが認められるけれども、かかる事情は、あくまで同乗させた運転者である川島正洋との関係の問題であるから、川島車と衝突した佐古田車との関係においては、無償同乗を理由として賠償額の減額を認める理由には乏しいものの、被告佐古田が負うべき慰謝料の減額事由の一つとしてかかる事情を考慮することは許されて然るべきものと思料される(前記三の6参照)。

六  過失相殺

前記認定事実によれば、原告は川島車の助手席に同乗していたとはいえ、その同乗の態様からして、原告が川島正洋の運転方法につき指示助言を与える立場にはないうえ、川島正洋の運転方法自体が無暴運転とまでは断じ難く、原告が川島正洋に対して助言を与えなかつたことをもつて原告固有の過失があるものとは認められない。

よつてこの点に関する原告の主張は理由がない。

七  損害の填補

原告に生じた損害のうち、すでに合計金二六七六万一〇四七円が填補されたことは当事者間に争いがないから、前記原告に生じた総損害四一九九万六四七五円から右金額を差引くと、金一五二三万五四二八円となる。

八  弁護士費用 金一六〇万円

本件事案の難易、審理経過、本訴認容額等に鑑み、本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用は、金一六〇万円が相当である。

九  結論

よつて、被告佐古田は原告に対し一六八三万五四二八円およびこれに対する本件事故日である昭和五一年八月三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、同被告に対する原告の請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却し、被告角野康男に対する原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 寺田幸雄)

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